【談話】
「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(答申)について
2012年9月14日
全日本教職員組合(全教)
教育文化局長 得丸 浩一
1. 8 月28 日、中央教育審議会は、「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上策について」(答申)を文科大臣に提出しました。「答申」では、「学び続ける教員像」の確立をうたい、教員養成の修士レベル化、「基礎」「一般」「専門」免許の3段階の免許制度創設、教育委員会と大学との連携強化などを改革の方向性として打ち出しています。教員免許更新制については継続の方向が示されています。
2. 全教は、2010 年3 月、「教員の資質向上に関する意見把握について」に対して意見書を提出し、2011 年7 月「審議経過報告」、2012 年6 月「審議のまとめ」に対しても、意見を表明してきました。全教は、3回の意見書を通じて「教員の資質向上」策の検討にあたっては、教員の持つべき専門職性を基本においた検討がなされるべきであること、個々の教員の「資質の向上」にとどまらず、学校総体としての教育力の向上という視点が重要であること、現場研修と教員の自主性を重視した制度的検討が必要であることなどを主張してきました。
3. 「答申」は、「現状と課題」として、「新たな学びを支える教員の養成と、学び続ける教員像の確立が求められている」ので、「教育委員会と大学との連携により、教職生活全体を通じて学び続ける教員を継続的に支援するための一体的な改革を行う必要がある」と課題をまとめています。全教は、3回の意見書で繰り返し教員としての成長を保障する現職研修の重要性を強調しながら、その中心的な場は、学校現場であることを指摘してきました。教員としての成長の柱である教員の専門職性は、日々の教育実践を蓄積し、同僚とともに日常的に、自主研修を重ねることによって維持され、向上することを特性としています。この特性をふまえ、教員としての成長を保障するもっとも確かな場は学校現場である、との立場で議論を深めていくことが求められています。全教のこうした指摘もあり、「答申」は自主研修、現場研修について、「自主的な資質能力向上の取組がこれまで日本の発展を支えてきたとの指摘もある」「様々な校内・校外の自主的な活動を一層活性化し、教職員がチームとして力を発揮していけるような環境の整備、教育委員会等による支援も必要」とし、また、「教員は、日々の教育実践や授業研究等の校内研修、近隣の学校との合同研修会、民間教育研究団体の研究会への参加、自発的な研修によって、学び合い、高め合いながら実践力を身に付けていく」と述べています。「答申」が研修を保障する条件整備について「自主的研修の支援などを推進するとともに、多忙化の解消など教員が研修等により自己研鑽に努めるための環境整備が必要である」とした立場に立って、現場を励ます研修への支援策や、長時間過密労働解消の施策とともに、学校総体としての教育力の向上という視点に立った改善が求められます。
4.「『開放制の教員養成』の原則については、今回の改革でも基本的に尊重する」と明言されたことは評価できます。その上で「答申」は、「改革の方向性」として、「教員養成を修士レベル化し、教員を高度専門職業人として明確に位置付ける」としています。修士レベル化が中長期的な検討課題とされることは否定しませんが、「修士レベル化」で養成するとしている「新たな学び」「応用的な学び」は学校現場でこそ獲得できる学びです。全教は、大学等の現状や教員採用と身分安定をめぐる課題、「世界一」とまで言われる日本の大学の高学費を放置したままでの修士レベル化は現実的ではないと指摘してきました。「答申」が、「授業料減免や奨学金の活用等学生の経済的負担の軽減についても留意する必要がある」とした点について実効ある具体化が望まれます。修士レベルの養成体制の整備について、すべての都道府県での教職大学院の設置などを打ち出してはいるものの、「設置数や入学定員が毎年の教員採用数に比べ圧倒的に少ない」ことを認めながら、「量的な整備をどのように進めるのか留意する必要がある」と述べるにとどまっています。早急な修士レベル化ではなく、慎重な検討と対応が望まれます。
5. 「答申」は、「一般免許状」「基礎免許状」「専門免許状」(仮称)の3種類の免許状を新たに創設するとしています。「一2般免許状」は、「標準的な免許状」と位置づけられ、「学部4 年に加え、1 年から2 年程度の修士レベルの課程(教職大学院)、修士課程、またはこれらの内容に類する学修プログラムでの学修を標準とする」とされています。「基礎免許状」は、学士課程修了レベルで取得できますが、「早期に『一般免許状』を取得することが期待される」免許状です。「答申」では、「基礎免許状」取得者が、「一般免許状」を取得する段階について①「一般免許状」取得後に教員として採用、②「基礎免許状」を取得し、教員採用直後に初任者研修と連携・融合した修士レベルの課程の修了により「一般免許状」を取得、③「基礎免許状」を取得し、教員採用後一定期間のうちに修士レベルの課程等での学修により「一般免許状」を取得、との3類型が示されています。修士レベル化を量的質的に保障する体制が整備されない現状では、②③の方法を採らざるを得なくなりますが、長時間過密労働がすすむ職場にあらたな負担を持ち込むことが懸念されます。また、「専門免許状」は、学位取得とはつなげず、「大学院レベルでの教育や、国が実施する研修、教育委員会と大学の連携による研修等により取得する」とされ、「校内研修や近隣との学校との合同研修会等についても、要件を満たせば、取得単位の一部として、認定を可能にする」としています。学校経営の分野の「専門免許状」については「管理職への登用条件の一つにすることについて、今後更なる検討が必要」とされています。免許状によって職務上の位置付けに差異をつけたり、勤務労働条件に格差を生じさせることは許されません。
6. 「教員免許更新制」については、「10 年経験者研修の法律上の実施義務の在り方との関係を含め、詳細な制度設計の際に更に検討を行うことが必要である」と記述しています。教育職員免許法が「政府は…免許状更新講習に係る制度について検討を加え…所要の措置を講ずるものとする」とした期限が来年に迫っています。全教の3次にわたるアンケートで「廃止」を求める声が圧倒的であったことに示されるように、教員免許更新制の廃止こそが「所要の措置」とされるべきです。しかし、「当面の改善方策」では「教員免許更新制については、適切な規模を確保するとともに、必修領域の内容充実、受講者のニーズに応じた内容設定等講習の質を向上するなど、必要な見直しを推進する」とされ、継続の方向が示されていることは断じて認められません。改めて制度の廃止を求めます。
7. 初任者研修や10 年経験者研修など法定研修については、「教職大学院等と連携・融合」「教育委員会と大学との連携・協働」「初任段階の研修の高度化」「複数年にわたり支援する仕組みを構築する」などが示されています。多くの初任者が採用1年までに退職を余儀なくされている状況をふまえ、初任者研修の廃止など制度の抜本的な見直しこそが求められています。また、初任者の「条件付採用期間」という不安定な雇用の見直しが必要です。
8. 特別支援教育について示された「専門性向上」は、求められている課題です。しかし、医療的ケアや発達障害など、特別支援教育に求められている高い専門性に応える為には、免許状の取得率向上だけでは困難です。正規採用のコーディネーターや看護師、OT、PTなどを国の責任で学校ごとに配置していくことが必要です。特別支援学級や通級指導教室の在籍者増に対し、専門性をもった教員を継続的に配置するとともに、研修受講を保障するためにも複数配置、代替教員の確保が必要です。
9. 日本の教育予算のGDP比は、OECD諸国平均の7割以下であり、国公私立学校での教員1人あたりの児童生徒数は、初等教育、前期中等教育ともにOECD平均を上回っています。30 人以下学級の実現と抜本的な教職員定数増が求められています。「答申」では、「学校が魅力ある職場となるための支援」の項で、「教職や学校が魅力ある職業、職場となるようにすることが重要である。そのため、修士レベル化に伴う教員の給与等の処遇の在り方について検討するとともに、教職員配置、学校の施設、設備等引き続き教育条件の整備を進める」と明記されました。早急な具体化が求められます。「いじめ」や子どもの自殺の問題で改めて明確になったのは、子どもの声に耳をすまし寄り添う教師こそが求められているということです。さらに、過密化、競争主義化を加速させる新自由主義的な「教育改革」ではなく、教師が子どもにゆっくり向き合えるようにする教育条件の抜本的な改善が必要であるということです。全教は、教職員が子どもと向き合い、子どもの声に耳を澄ますことができる環境の中で、学校総体として教育力を高めていける条件整備のために全力をあげる決意です。
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- 2012/09/25(火) 08:43:25|
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